(思い出の続き)
休憩室を出ると冷気が体を包み、汗を掻いていた体を一気に冷やす。一瞬気持ちいいが後は寒くてしょうがない。
休憩室を出ると下駄箱があり、左手に直径1.5M高さ1M位の甑が並んでおり一つは被せてあった布が取られ湯気がもうもうと上がっており、脇に木のビン箱が置かれ足場のようだ。
もう一つの甑はまだ布が破裂せんばかりに膨らんでいる。
その奥に直径1M高さ4M位の大きな連続蒸米機が置かれコンベアが繋がっている天辺から蒸気がもうもうと出ている。
蒸気の音と換気扇の音とでかなりうるさい。
蔵全体に蒸した米の香りが充満する。
頭を探すがとりあえず釜場には見当たらず釜屋に聞いてみたが、いらいらして何を言っているか解らないので歩いてきた船頭に聞いてみると仕込み蔵にいるそうだ。
しかし凄い騒音である。
仕込み蔵の入り口には高さ3M幅1.5Mほどの引き戸が一対あり、その脇に神棚がある。
蔵の扉にはまた一つ1M位の小さな扉があって大きな扉をわざわざ開けなくても入れるようになっている。
大きな扉は厚みも10CMくらいある立派なものだ。
仕込み蔵に頭を探しに入り扉を閉める。
釜場から直径15CMくらいの太いホースが来ていて、その先端に籠が付けてあり、頭さんはそれを紐で結わえていた。
「あのー僕は何をしたら良いですか」と尋ねる。
「おう、オヤジはいい話をしてくれたかね」と親指を立てる。
蔵人は杜氏を呼ぶときオヤジと言うのである。また呼ぶのもめんどくさい時は、親指をチラッと見せて済ますのである。
例えば杜氏が何ていっていたか聞きたいときは、親指を見せて
「何ていっていた?」と言う感じである。
「いい話をしてくれました」と親指を見せる。
頭は少し笑って
「それじゃあ蒸し米を掘ってクンナイ」と言う。
頭は言葉少ないがいい人そうである。
仕込み蔵を後にして釜場に戻る。 (続く)荒川
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