(思い出の続き)
事務所には若いオネー様たちが楽しそうに仕事をしている。おそろいのユニフォームがOLっぽくてかわいい。私が言うことではないがとりあえず合格である。経営者さんはいい趣味している・・・。
「こんにちは、そちらで座って待っていてくださいね」と店舗の脇の腰掛に案内された。
こんな所で面接してお客さんが着たらどうすんだろう思っていたが、お客さんは一人も来ない。
座っているとカウンターの奥から急におばあさんが出てきたので驚いた。元看板娘のおばあさんと話をする。
「どこから来たの?」
「岩倉から来ました」
「・・・・・・・・・」 ハハーン、きっと知らないな
「いくつ?」
「二十歳です」
「いいねー若くて」 若くてもとても疲れています
「この会社は本当にいい会社だから入った方がいいよ!」 是非、給料がいただけるなら何でもしますから入れてください。とりあえず生活費が欲しいんです。
奥から人の良さそうな腹の出た信楽焼きの様な叔父さんが出てきた。ニコニコしている。きっと専務さんだ、とりあえ起立して挨拶をする。
「先日お電話しました荒川貴信と申します。」 緊張するな
「まあ座って」 座る。さっき飲んだコーヒーが逆流しそうだ。
とりあえず履歴書を出し、広げ渡す。 家族欄を見ないでくれー!
専務は上から目を通していく。 そんな紙切れで僕を判断しないでくれー。
専務の目が家族欄らしき所で目が止まった。 やばい・・来るぞ!
「荒川君! 小さい妹がいるんだねー。」 違います・・・
「あっ、間違っているよ。扶養家族が二人になっているよ」 だから間違っているのはあなたです。いや私が人生設計を間違えました。
事務所のオネー様がお茶を出してくれる。
一瞬目が合いニコッとしてくれた。この人は年下好きかな。
「あのーそれは、僕の娘です」 言っちゃった。 絶対 ええっ って言うぞ。
「ええっ」 にやけながら私を見ている。
「君、子供がいるの!いくつ?」 終わったな。そんなに悪いことかな、むしろ私は誇りを持っています。
「一歳です、出来ちゃいました。」
「どうやって生活しているの?」
「バイトを深夜までやっています。」 後はパチンコで補っていますとは言えない。
「大変だね。」 同情するなら金をくれ! 仕事をくれ?いや同情される必要はない。
「酒造りは大変だよ。」 今の生活の方が大変です。お腹が減ってしょうがないんです。
「出来ます。」 多分ね
「とりあえず冬休みになったらバイトしにおいで、そこで続けれそうならお願いします」
よし!就職決まっちゃった!
「ありがとうございました」
「瀬戸駅まで送らせますので、少し待っててね」 待ちますとも、待ちますとも。
看板元娘さんがニコニコして私を見ている。年下好みかな? 次回があれば続く。荒川
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